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うまくいかない。 「こらぁああーーーー!またんかっ、教室に戻れっ!!」 俺の怒声も様になってきただろ?俺、きっとアカデミーで一番声がでかいって自負できると思う。 「ミズキ先生もお疲れ様です。」 俺は軽く笑みを浮かべた。ミズキとはアカデミーからのクラスメイトだ。たまに遊んでいたような気がしたが下忍になってからはほとんど顔も合わせてなかったけど、同じアカデミーの教師として再会して気軽に声をかけられる同僚となっている。 「イルカ先生のクラスは元気がいいですよね。俺のクラスももう少し元気があればいんですけど、みんな大人しくて。」 俺のクラスは知力も体力も平均すれば中なのだが、それは個々の力を平均したもので、知力がずばぬけているサクラもいれば忍びの基本中の基本も解らないナルトのような子もいたり、サスケのように飛び抜けて忍術の才能のある子もいればナルトのように苦手な術がとことんできない子もいる。 「お、ナルト、綺麗に掃除したか?」 「ぴっかぴかに磨いてやったってばよっ。これでいいだろっ。」 ナルトは俺の顔を見て頬をふくらませて背を向けようとした。こいつは言ったことは守る奴だ。きっとトイレは本当にピカピカに磨かれていることだろう。 「待てナルト、掃除をがんばったお前にこれやるよ。」 俺はポケットに持っていたあめ玉を数個、ナルトの手に握らせた。 「これに懲りたら授業、抜け出すなよ。まったくお前は好きな術の覚えはいいくせに苦手なものは見向きもしないんだから、そんなこっちゃ立派な忍びにはなれんぞ!」 俺はそう言ってナルトの額を小突いた。 「別に...。」 諦めにも似たその小さな呟きに、俺は顔には出さなかったが心中は激しく波打っていた。 「俺、帰るってばよっ。イルカ先生またなー。」 ナルトはそう言って走って行ってしまった。俺はその後ろ姿をただただ見ていることしかできなかった。 俺は、卑怯者だ。 それから数日後、その日俺は同僚のスガリ先生に呼び出された。ナルトのことで担任である俺が他の教師からお小言を言われるのは、実は結構頻繁にあることだ。 「すみません、お待たせしましたか。」 中庭に着くと、俺を呼んだスガリ先生が待っていた。 「いえ、大丈夫です。すみません、わざわさせお呼び立てしてしまって。」 スガリ先生は申し訳なさそうに微笑んでいる。美人だよなあ。アカデミーの中の高嶺の花って言われてるだけあるよなあ。 「いえいえ、それでどのようなご用件ですか?」 とりあえず職員室で話せるようなことではないのだろう。俺は心持ち背筋を伸ばした。 「イルカ先生、好きです。私とつき合ってくださいませんか?」 俺はぽかんとした。俺、女性から告白されたの初めてなんですけど。 「あの、ありがとうございます。こんな俺に、勿体ないです。でも、すみません、俺、今は仕事が大事って言うか、恋愛事は今はちょっと考えられないって言うか。」 うん、それは本当。だってもうすぐ卒業試験だってあるし、ナルトも今度は合格できるといいけど。しかしここで断ってこの先こういうチャンスって俺にあるのかなあ?ないかもなあ。そう思ったら少し惜しい気がしないわけでもないけど、でもそんな打算でつき合うってのはどうかと思うしな、やっぱりここははっきりと断った方が相手にとっていいよな。 「えーと、そんなわけで、」 「思い上がるなよ、中忍風情が、」 あ、あれ、何か今、すごい低くて怒気をはらんだ声が聞こえた気がするんですけど。 「中忍が上忍の告白を断れるわけないでしょう。折角あのナルトがらみの面倒も私の力で抑えてやろうと思ったのに。」 その言葉に俺はひどく苛立った。 「あの、上忍云々は今は置いといても、ナルトの面倒ってのはなんですか?俺はナルトが面倒だなんて思ったこと一度もないですよ。確かに手のかかる子ですが、あいつはまっすぐで根性のある奴です。今はいたずらばっかりしてますが、いずれ忍びとして立派に育っていきますよ。」 「馬鹿じゃないの?狐が体に宿ってるだけでもうあのガキは生きた傀儡よ。里で普通の子として生かしてもらってるだけありがたいと思ってもらいたいものだわ。それが忍びなんて、とんでもない。」 うすら笑うこの人が本当に同じアカデミーで生徒に教鞭を振っている人物とは思えなかった。こいつ、ナルトをただの器とだけ見て、1人の人間として見ないのか。だが、こういった人間がいることもまた事実。それはこのスガリ先生だけではない。だが、その言葉は許せなかった。 「あなたに選択権はないわ、私がつき合ってやるって言ってるのよ。ありがたく思いなさい。」 俺は憤慨した。 「冗談じゃないです。俺の大切な生徒を愚弄するような人とつき合う程俺は腐ってませんよっ。」 うわー、上忍相手にけんか腰になってどうするよ俺っ。俺って昔からそうなんだよなあ、こう、頭にかっと血が上ると思わず口に出ちゃうって言うか。いやいや、今はそんなこと考えてる時じゃなくて、確か昔酒の席で女を静めるためにはひたすらこちらが下手にでるんだっけ?だめだ、頭が段々焦ってきた。 「うみの先生、いざとなればあなたなんか私の幻術と暗示で無理矢理言うことを聞かせることもできるのよ。」 スガリ先生は印を結び始めた。やばいっ、この人本気だよっ。 「あー、そこまでね、あんた。」 その声と姿に、こんな状況、以前にもあったなあ、なんて俺は焦っている頭の隅っこで思った。 |